住宅の新築時の契約形態の違いについて考えてみた

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契約というのは問題が起きなければ必要のないものと言えなくもないのですが、さすがにお互い営業活動を通じて去年今年に知り合ったレベルの人どうしのウン千万円のやり取りでそんなことも言っていられませんので(悪意がなくても行き違いや事故は起こるので)、住宅の新築時に普通の人であっても契約の中身をきちんと把握しておくことは大切だと思われます。建築主の側としては行き違いや事故が発生した場合の事後処理を行う際に必要な責任の所在が明文化されていることがとても大事になってきますし、設計・施工業者の側としては、建築主が決められた期日までに約束した金額を支払うことを明文化しておくことが一番大事なことになってきます。

 

設計・施工側の責任の所在ということになりますと住宅を施工する場合、これが意外と知られていなかったりするのですが、設計した人の責任と施工した人の責任は別に扱われます。例えば設計上のミスで雨漏りが起きた場合は設計者の責任になりますし、施工上のミスの雨漏りは施工業者の責任になる訳です。暮らす人にとっては雨漏りは雨漏りなのでどっちでもいいからとにかく直してくれよ、という話で済ませて欲しい訳ですが、事故が起きた場合の責任を厳密に追求した場合、その費用の請求先は原因次第で変わってきてしまうのです。

 

住宅業界では、設計した人の責任を問う契約を設計監理契約と呼び、施工する人の責任を問う契約を工事請負契約と呼んでいます。

 

家を建てる場合、原則としてこの二つの契約を結ぶことになるのですが、設計と施工を一つの会社でこなしてしまう工務店や大手ハウスメーカーの場合、設計の部分の責任も含めて全てを工事請負契約として契約を結んでしまいます。設計監理契約がなくても契約書の中で工事施工の他に設計も同時に依頼している旨が明記されていたり、見積もりの項目に「設計料」の項目が含まれていれば、特に設計監理契約を別途結ばなくても問題はなさそうです。

 

設計監理契約と工事請負契約を別々に結ぶケースは、施主が設計事務所に設計を依頼し、設計事務所が外部の工務店に施工を依頼する場合が殆どになると思われます。

 

法律上、設計監理と工事請負を別々に契約することと、工事請負契約で一本化することとでメリット・デメリットのような差は出ませんが、実務においては契約形態の異なることで差は出ると言えます。ここでその直接的ではないにせよ、差の出る部分でのメリットとデメリットを書いておこうと思います。

 

設計監理と工事請負を別々に契約する所に頼むメリット

施工業者が手抜きをしたり事故を誤魔化したり、ということを監視できるという点がメリットになります。悪質な隠蔽が行われなかったとしても、施主との打ち合わせで決められた図面に従って正確に施工されているかのチェックを、第三者の立場でシビアにチェックできるメリットは、特に特別注文の多い仕様の場合は大きいと思われます。

 

また、専門知識を持った設計者が工事費用に関して厳しくチェックができる為、無駄な費用を削減することを施工業者に要請することができるのもメリットとしてあげられると思います。

 

設計監理と工事請負を別々に契約する所に頼むデメリット

この二つを別々に契約する一番のデメリットは責任が分散してしまうことです。施工にミスが出た場合、どちらのミスかを特定する際、必ずしもどちらかのミスと特定できないケースもそれなりにあるのですが、その場合、施工会社と設計事務所で責任の所在が真っ向から対立することもしばしばあるようです。責任の所在で設計者と施工業者が対立してしまった場合、その対応が大幅に遅れてしまうようなことも起きているようです。

 

特に設計事務所がローコストで注文住宅を新築するような企画ですと設計事務所が施工業者の仕事を安く買い叩いてる可能性があり、その場合、施工業者の心証は良くありませんから(当たり前ですよね)、特に注意が必要だと思われます。

 

もう一つデメリットとして、施工業者と設計事務所でお互い初めての仕事になる場合、施工業者は設計者の意図を一から汲み取る必要があり、普段から一緒に仕事をしている者どうしのやりとりのようにはまずいきませんので、確率の問題ではありますが、事故や行き違いが発生する確率は高くなる、ということは言えます。そうならない為に設計・監督者が現場に足蹴に通わないといけないのですが、設計・監督者もそうそう毎日現場にばかりも行っていられないのが現実ではあります。

 

設計監理契約を省いて工事請負契約に一本化している所に頼むメリット

設計した人と施工する人が常に一体となって仕事をしている会社であれば、“特別仕様”の設計であっても、レギュラーに対処できることとイレギュラーな対応が必要なことの区別が明確ですから、事故を未然に防ぐ為に必要な装備であったり仕様の変更等を以心伝心のような形で準備し合えるのはメリットと言って良いと思われます。

そういう部分も含め、設計と現場が身近な所で密に打ち合わせができる体制があることは、設計者が頻繁に現場に通わなくても事故や行き違い等を最小限に抑えられるメリットがあります。施工現場では設計・監督者が急な打ち合わせ等でたまたまその日、現場に行けなかった、というようなことは良くあることのようです。

 

ただし、大きな組織では上記のようなメリットは出にくい傾向にあるかもしれません。

 

設計監理契約を省いて工事請負契約に一本化している所に頼むデメリット

事故や手抜きが起きてそれを隠蔽してしまおうという意思が設計者と施工者双方に働いた場合、抑止力が建築主のチェックしかなくなってしまう(瑕疵保険会社の検査もありますが、これは厳しくし過ぎると工務店から契約を他の保険会社に変えられてしまうリスクも実はあり、制度の仕組みとしては性善説を頼りにするしかないのですよね)という点はデメリットになると思われます。また、普段仕事をし慣れていればこそ起こる気の緩みで照明の位置等の単純なことがおろそかになってしまう事故も(建築主の意図とは違うところに照明が付けられてしまった)、起こりやすいかもしれません。

 

あとは良く言われることですが、設計の段階で現場の施工のし易さばかりを優先させてしまい、オリジナリティーの要素が減ってしまうというデメリットはあるでしょう。