ウチが工務店を選んだ理由(その2)

(前回の続き)

因みに、床の水平のような施工精度をどうやって見分けるのかという話になれば、こればかりは住宅展示場の数こなすしかない面はあると思います。まずは営業さんがいい人かどうかを忘れられるようになって、次に天井が高い空間と明るい照明に興奮しないようになることから始めると良いかもしれません。

 

営業さんがどんなにいい人でも、営業さんはあくまで組織のヒトなので、一度着工してしまえば営業さんにはもう現場の細かいことに関しての(大工さんの細かい手抜きを指摘して正す、等)発言権はほぼありませんので、営業さんの人柄だけで決めてしまわないような心の準備は大事かもしれません。また、人間は天井の高い空間に入れられると興奮する、のような習性を幾つか持っているようなので、住宅メーカーの方々をその習性を利用した営業戦略をしたたかに練った上でモデルハウスを作っています。「奥さんを興奮させてしまえばコッチのもの」の類の罠がモデルハウスには随所に仕掛けられていますので(ガラス張りのお風呂とかも?)、その手に乗らないように奥さん共々、準備をして挑むのが吉だとは思います。数をこなし、少し慣れてくればそれで準備ができた状態になりますから、そこからが本番だとは思います。

 

目安として、例えば掃き出し窓のような大きな窓枠の右側と左側の寸法を測ってみて、2mm以上の誤差があれば「まあいいや」の積み重ねで施工された物件と言って良いと思います。一般事務職の世界では2mmは気にするほどではない誤差の範疇として扱われますが、職人の世界では2mmの違いは誤差としては許容されない大きな差として扱われます。ですから腕のある大工なら、それが掃き出し窓の枠であっても右側と左側の寸法差を2mm以内に収める施工をします。こういった日頃の行いの積み重ねの中でしか身につけることができない、キチンとした技術を基準に人に優劣を付ける、昔ながらのフィルタリングが機能している世界が、日本にはまだ残っているのですよね。もっともこのフィルタリング機能は今は「無駄な修行」と蔑ろにされてしまう向きもありそうですが、見えない所のミス一つ「まあいいや」で済ませない人かどうかを見分ける、これは一番確実な方法ではありますので、こういうルールは事務職文化に従う必要はないのかな、とは思いますよね。

 

住宅展示場だけでは水平の精度の高い建物に出会う確率も非常に低いので、ここはやはり地域で腕がある、と言われている工務店の施工物件(大体は社長の家)と比べてみることもお勧めします。住宅展示場や社長宅の内覧は、通常は住所と氏名と電話番号を記入して内覧しますから、その後に営業を掛けらる煩わしさは確かにありますが、営業の方に遠慮したが為に施工の悪い家に住まなければならなくなるくらいなら、心を鬼にして多くの物件を内覧してみる方をお勧めはします。

 

木造のモデルハウスを見学する際、もう一つ気にしておくと良いことがあります。それは構造材が不足しているかどうか、です。木造の住宅規模の建物ですと、床の踏み心地で建物の構造の強度をそれなりに感じることができたりするのです。これが鉄骨やRCになりますとさすがに難しい訳ですが、木造なら構造材が足りているのか不足しているのか、ある程度まで床の感触でそれを感じることができる訳です。僕ら素人がそういった感覚的な違いを絶対値として感じることは難しいので、これは他と比べることでしかわからない感覚なのですが、建物にしっかりとした分量の構造材が入っていれば、体はしっかりとした足場を感じることができます。これは1階部分ではなく、2階部分に上がった時に感じやすくなる感覚です。それはグラつく感覚ではなく、床の密度の濃さで感じられる感覚なのです。密度が薄い感触のある床は、構造材が不足している可能性があるでしょう。

 

僕が入った都内の某お洒落なモデルハウスも2皆部分の床を支える構造材が不足している感は否めず、体重のちょっと重たい人がジャンプしたら構造の繋ぎ合わせの部分が簡単に痛んでしまいそうな感触があるのでした。構造材が足りなければ当然、一つの継ぎ目に掛かる負荷は大きな物になっていきます。当然、痛むのも早い訳です。もちろん、その密度の薄い感触が構造材が不足していることによるものなのか、正確には分からない訳ですが、新築が一発勝負である以上、そこでの冒険は避けたい訳です。

 

総じてそのお洒落ハウスは、見た目以外の部分が自分たちが求める所で緻密に選択、施工されている印象はありませんでした。

 

逆にウチが最終的に新築をお願いすることにした工務店の施工物件では、そういう部分で疑問を持つことがほぼないのでした。二つを比較しますと、もう歴然と違う訳です。工務店の施工物件は窓枠の左右のズレが2mm以内に収まるのはもちろんのこと、歩いて構造材の不足を感じることもなく2階部分でも十分に密度の濃い踏み心地があり(人が少々ジャンプしたくらいで継ぎ目が痛みそうな感じもない)、そして使われる材のグレードに関して、どうせ分からないんだから、のような勝手な見切りで安っぽいもので済ませてしまうことなく、隅々まで必要な所に適切なグレードの材を使用するという、そこで暮らす人の五感を決して蔑ろにしない職人気質の設計がなされているのでした。これがウチの求めているものですよ、とその時に思いました。

 

二つのモデルハウスの坪単価を比べますと、概ね一緒でした。どちらもローコスト住宅よりは高額です。高額なだけに品質そのものはローコスト住宅をどちらも上回っている部分がちゃんとあり、ここで住宅の価格帯でのジャンル別けや仕様グレード別けの相関関係が何となく見えてきた訳です。細かくは書きませんが、中途半端になることを避けるなら「両方」は欲ばれないんだよなぁ、と悟るに至り、最終的にはウチは工務店が合ってるよ、となった訳です。

 

ある意味、見た目を諦めた訳ですが、それでもその工務店の家はベーシックなジャンルの建物としてはデザインセンスに野暮ったさはなく、デザインに関しても勉強をしている人を雇っていたり、オーソドックスながらも十分上品で落ち着きのある建物にまとまっていたというのも、決断を後押ししました。

 

加えて書くなら、リセールバリューも考えにありました。僕は数年前、興味があって不動産の競売市場を観察していたのですが、そこで個性豊かな注文住宅のあまりの不人気ぶりを目の当たりにして、次第に新築するならオーソドックスに限る、と思うようになっていました。競売物件に出てくる注文住宅は、「白金台駅徒歩5分」敷地面積300㎡のようなスペシャルなものでない限り、ちょっとやそっとのいい感じの家でも札が殆ど入らないのが現実なのです。誰か一人くらいは「良さ」を分かってくれる人がいる、なんて施主の当初の目論見が世間ズレれをした幼稚な思い込みでしかないことを、競売市場はまざまざと見せつけてくれるのです。一戸建てで札が入りやすいのは、築浅の種も仕掛けも思い入れも何もない、普通の分譲住宅なのですよね。

 

注文住宅であろうが不動産には違いありませんので「出口戦略」とは無縁ではいられません。止むに止まれず売却、或いは賃貸に出す、ということになった場合、買い手、借り手が付きやすい物件であることは、特にウチのような資産家ではない家庭の場合、どうしても必要な要素になってきてしまうことも決定に影響したと思います。