僕がローコスト住宅を止めた理由(その2)

前回の続きです。

 

4:格安ラーメンを提供するチェーン店方式

テレビで時々見かけますが、ラーメン屋のチェーン店等で目玉のラーメンは原価ギリギリでも他のメニューできっちり儲けを出す、というやり方がありますよね。で、タ◯ホーム等のやり方はそれに近い、とは思いました。つまり目玉になる基本プランでは、メーカーとしてそんなに儲けの出ない仕様にしてはいるものの、きちんとした仕様と呼ぶには物足りない仕様にしておき、お客さんがオプションを選ぶことで儲けが出る形にしておく訳です。オプションを入れた場合の価格がドンと上がってしまう、というのはそういうことなんだろうと思う訳です。

 

例えばタ◯ホームの標準仕様を断熱性能で見てみると、サッシに関しては今の時代の標準的なLow-E仕様の2重ガラスのものを使用していますし、断熱の厚さはカタログ表記で「高性能グラスウール10k 100mm」とありますので、一見、他のメーカーと比べて極端に劣ることはないように見える訳です。ただ、ちょっと住宅断熱の知識のある人なら、やはり高性能グラスウールなら16kの物を使用したいと思うはずですし、厚さが100mmというなら構造材の太さに換算すれば3.5寸相当の厚さですし、2×4の壁の厚さいに近い訳です。であれば尚更使うグラスウールは16k以上の性能を持つ物が好ましい訳です。そこで断熱材を好ましい性能の物にすれば、お値段がドンと上がってしまうというからくりです。もちろん「高性能グラスウール10k 100mm」という仕様でも全く暮らせない程寒くなる訳ではありませんが、16k 120mm(4寸柱)のような仕様よりは間違いなく寒い訳です。

 

結局、契約の段階で必要な知識を持っている人の方が少なく、契約した後で細かいことを決める段階で知識が増えた時にはもう逃げられない、という状況を狙っているとは思われます。オプションを付けてしまえば、普通の価格の住宅と大きく変わらない価格になってしまいますが、性能はもちろん普通の住宅になりますので、お客が物質的な面で損をする訳ではありません。が、お客さんの自由を知識の優位性を利用して奪いにきているという点は、個人的には共感できないのですよね。

 

もっとも、冬寒かったり、諸々細かいことは我慢するから敷地50㎡、建物だけで1800万でどうしても家を持ちたいという夢も、それなりの内容で実現してもいますので、悪徳と呼べる程でもないという感じはあるでしょうか。もちろん冬は寒い訳ですけど。

 

5:構造の部分で安くできる材と工法を採用する

家を安く建てる際の一番原始的な方法ではありますから、特に改めて説明する必要もない気もしますが、それでもここも大事な部分なので最後に書いておきます。今、最も多く採用されている安く建てられる構造材と工法の組み合わせは、耐力壁に構造用合板を使って在来工法で建て、断熱材にグラスウール、基礎はベタ基礎、外壁は窒素系サイディングで建てる方法でしょうか。

 

これで問題がないと言えばないのですが、断熱材にグラスウールを使用し、耐力壁に構造用合板を組み合わせる工法は、仮に施工ミスが起きていた場合、壁の中に結露が発生し、長い年月を掛けて家を腐食させてしまう可能性もあるにはあるのです。

 

構造用合板は透湿抵抗値がもの凄く高く、湿気を壁の中に溜め込んでしまう性質を持っている為、湿気を吸わないグラスウールと組み合わせると結露が発生し易くなってしまうのです。そこで湿気を通さないビニールシートで壁の中に湿気が入ってこないように完全密閉で施工をする必要があるのですが、そこでミスが出てしまうと壁の中に湿気が侵入し、結露が発生してしまうのです。良く知られている通りで、壁の内部の結露は建物に大変大きなダメージを与えます。

 

壁の中の出来事なので外からは見えませんし、気が付いた時には既に時効、のような状況も当然あり得る訳です。そこで耐力壁に透湿抵抗値の低い建材を使って壁の中に湿気が篭らない構造にするなり策を施すと、もうそんなに安くは建てられません。

 

もちろん、施工ミスが起きなければ安いままでも問題はないのですが、訓練されていない安い賃金の組立工が施工することを考えると、仮に予算が許すなら、真っ先に避けて通りたい建材の組み合わせではあるのですよね。

 

まとめ

他にもコストの圧縮の仕方はあるようですが、ローコストで建てるパワービルダーは大まかに以上5つの組み合わせでローコストを実現しているようです。大雑把に言えば、広告と入り口の部分で安く見せかけているだけか、住宅性能や施工技術を含めて品質が落ちる方法を使うか、のどちらかではあるのです。

 

地域の工務店との価格差を考えますと、都内で施工面積35坪くらいであれば、大雑把に300万程度の差にはなります(本当に大雑把です)。住宅性能は、継続的な使い心地のような部分も含め、地域の工務店の方が品質はかなり優れています。あとはその300万をどう考えるのか、という話にはなっていくと思われます。

 

言えることがあるとするなら、下手な施工というのは、単純に捻れた状態にあるものを力づくで嵌め込んでしまう施工ですから、材の継ぎ目等が見えない所で少し痛んだ状態で施主に引き渡されてしまいます。家が新しい間は気にならないレベルで収まるのですが、次第に継ぎ目の痛んだ部分がじわじわと広がっていきますから、住み心地や使い心地も、経年を重ねる毎に丁寧に組み込まれた家との差が大きく開いていってしまう訳です。家に限らず、下手な人が作ったものというのはそもそもそういう物ではあります。新しい時だけいいんです。

 

職人さんの仕事は何でもそうなのですけど、長い年月使い続けても、日頃の手入れさえきちんとしていれば、使い心地がそんなに劣化することはありません。ウチの場合、最終的にはそういう技術を持った人に対してきちんとしたお金を払ってお願いをするのか、そこをリスク覚悟で安く大した技術のない人を使うのか、という選択ではあったのでした。